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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)92号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いない甲第二号証の一(本願明細書)、二(昭和六一年一月二五日付け手続補正書)によれば、本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は次のとおりと認められる(別紙第一図面参照)。

(一) 技術的課題(目的)

本願考案は、パチンコ機械あるいはパチンコの玉貸機等に用いるパチンコ球の供給装置に関する (本願明細書第一欄第一九行及び第二〇行)。

従来のパチンコ球供給装置は一定数(一般には四〇〇個)の球を供給するものであつて、一個単位で任意の数の球を供給できる装置は存在しなかつた。そのため、左記のように各種の問題があつた。

<1> パチンコ機械の賞球保持装置は機種によつて賞球数が異なるため、歯車その他の部品をすべて別々に製造しなければならない。

<2> 玉貸機は物価の変動に従つて貸与する球数が変わるべきであるが、そのような場合玉貸機を取り替えねばならない。

<3> パチンコ機械は一般に一度に四〇〇個の球をタンクに補給するため、利益球と損失球の差をとつて損失率が一定数になつた時に打止めにすると、タンクにまだ球がありしたがつて空ランプが点灯しないのに、客が打止めを通告される場合が多くなる。

<4> 閉店後に打止機もタンク内の残球を勘定し損益を調べるが、打止機が全体の二割にも達する場合があり、残球の勘定が面倒である。打止機のタンク内残球は零であることが好ましい(第二欄第三行ないし第三欄第一〇行)。

本願考案は、前記のような問題を解決するため創作されたもので、その目的は、パチンコ機械に用いれば一つの賞球保持装置によりすべての機種に使用できるパチンコ球の供給装置を提供することであり、他の目的は玉貸機に用いれば物価の変動に従つて貸与する球数を任意に変え得るパチンコ球の供給装置を提供することであり、また他の目的はコンピユータに接続してパチンコ機械に用いれば打止めの実時間制御、いわゆるリアルタイムコントロールができるパチンコ球の供給装置を提供することであり、さらに他の目的は前記と同様に形成すれば打止め後の残球勘定をしないで済むパチンコ球の供給装置を提供することである(昭和六一年一月二五日手続補正書第二頁第二行ないし第一七行)。

(二) 構成

本願考案は、前記の目的を達成するためにその要旨とする構成を採用したものであつて、別紙第一図面の第1~第3図に示された実施例について説明すると、球通路1は筒状であり、検出器2はコ字状の鉄芯3にコイル4を巻いたものでその末端に磁石片5が設けられている。球10が球通路1を通過することにより鉄芯3中の磁束密度が変化してコイル4にパルス電流が発生し、このパルスを検知することによつて球を一個単位で計数できる。ただし検出器2の機構はこれに限るものではなく、ホール素子又は静電容量板など、各種のものを用いてよい(本願明細書第三欄第一一行及び第一二行、第三〇行ないし第三九行)。

制御装置6は、フレーム7にプランジヤー8を有するソレノイド9が設けてあり、該プランジヤー8の先端には球10の移動を制御するストツパー11が設けてある。ストツパー11は、ソレノイド9及びスプリング12により矢印A11方向に往復運動し、球通路1中を流下する球10の移動を制御する。ただし制御装置6は一例を示すもので、このような構造のものに限るものでない(第三欄第四〇行ないし第四欄第六行)。

第3図において、前記検出器2はカウンター15に接続されており、球の通過により検出器2から発せられた前記パルスは、該カウンター15においてカウントされて累積され、その値は比較装置16に送られる。17は供給球数の一個単位電気的数値入力装置であり、一例としてデジツトスイツチが用いられる。比較装置16は、一個単位電気的数値入力装置17からの数値と、カウンター15からの数値が一致した場合にのみ出力するように構成された装置であり、この比較装置16の出力によつて前記制御装置6のソレノイド9が作動を止め、スプリング12により球の流下を止めるように構成されている。18は論理回路を示す(第四欄第七行ないし第二〇行)。

この装置をパチンコ機械に設ける場合、任意の補給球数を一個単位電気的数値入力装置17により比較装置16に設定しておく。賞球タンクが空になるとタンクの底部等から発せられる無球信号(これらの装置はいずれも公知である。)により制御装置6のソレノイド9が作動し、ストツパー11はソレノイド方向に引かれ球通路1が開通して、球がタンクに供給される。同時に、検出器2が球を検出しパルスを発生させる。このパルスは、カウンター15においてカウントされ、その数値は比較装置16に送られる。このようにして多数個の球補給が行われ、やがて比較装置16に累積されたカウンター15からの個数が一個単位電気的数値入力装置17の設定数と同一数値に達すると、その出力により制御装置6のソレノイド9の作動が停止し、ストツパー11はスプリング12により引かれ球通路1を閉ざして、タンクへの球の供給は止められる(第四欄第二一行ないし第四〇行)。

(三) 作用効果

本願考案は、前記の構成によつて、一個単位で数量を任意に変更できるパチンコ球の供給装置を提供することができる。この装置をパチンコ機械の賞球保持装置の代わりに設け、異なる機種ごとに一個単位電気的数値入力装置17の設定数値を変えるようにすれば、一つの装置ですべての機械を満足させることができる。また玉貸機として用いれば、物価の変動に従つて貸与する球数を任意に変えることができる。また、パチンコ機械をコントロールしているコンピユータに接続し利益球と損失球の差数の数値の出力端を一個単位電気的数値入力装置17に接続すれば、普段は一定数(例えば四〇〇個)をタンクに供給し、利益球と損失球の差数が損失の限度に達するのに四〇〇個以内の数になれば、右数値はパチンコ遊戯に伴い刻々変わつて、実時間制御いわゆるリアルタイムコントロールが行われ、タンクが空になり空ランプが点灯すると共に打止めになり、客を納得させることができる。そして、打止機はタンク内残球が零であるから残球を勘定する必要がなく、球の損益計算が容易にできる(第四欄第四一行ないし第六欄第六行)。

2 一方、成立に争いない甲第三号証によれば、引用例1の第二欄第三六行ないし第三欄第一九行、第三欄第二九行ないし第三三行、第三欄第四三行ないし第四欄第一行、第四欄第九行ないし第一六行及び第四欄第三一行ないし第三八行には、樋15にこれを通過するパチンコ球を検知する接片18とそれにより電気信号を発するスイツチ17を設けると共に、電磁石21の作動によつてストツパー杆20を樋15内から退出させあるいは突入させてパチンコ球の供給制御を行うストツパー機構を設けること、右電気信号により樋15を通過したパチンコ球の球数をカウントしてこれを表示する装置25を設けること、及び樋15を通過させるパチンコ球の定量数あるいは任意数をあらかじめ設定しておくと共に、補給タンク2内にパチンコ球がなくなつたときにはストツパー杆20を退出させる電気信号を、樋15を通過した球が右設定数に達したときにはストツパー杆20を突入させる電気信号をそれぞれ電磁石21に送る構造が記載されていると認められる(別紙第二図面参照)。なお引用例1には必ずしも構造の具体的記載はないが、その作動状況からみて当然に右構造を有するものと解される。

そうすると、引用例1記載のものは、補給タンク2内にパチンコ球がなくなると樋15内に球を通過させて補給タンク2にパチンコ球を補給するが、樋15を通過する一個単位の球ごとに電気信号が発せられ、補給数が定量数あるいは任意数に達したことが判明したときは球の通過を阻止するストツパー機構19を作動させるという作用を果たすことが明らかである。なお、引用例1記載のものは、樋15を通過する球ごとに発せられる電気信号のほかには補給球数をカウントする手段を有していないから、球数のカウントは右電気信号に基づいてなされるものと解するのが相当である。

3 一致点の認定について

原告は、引用例1記載のものはパチンコ球の一個単位の供給装置を形成しておらず、本願考案と引用例1記載のものがこの点において一致するとした審決の認定は誤りであると主張する。

しかしながら、前記のとおり引用例1記載のものは、タンクに補給されるパチンコ球を通す樋に設けたスイツチ機構から一個単位の通過信号を発し、この信号に基づいて通過球数をカウントして、定量数又は任意数の球が通過したとき電磁石に電気信号を送りストツパー杆を作動させることにより球の通過を阻止するものであるが、樋を通してパチンコ球を補給することは球の供給にほかならないから、引用例1記載のものが供給装置でないとはいえず、かつ、右装置は球の通過を一個単位で検出し制御し得るのであるから、引用例1記載のものがパチンコ球の一個単位供給器を形成しているとの審決の認定に誤りはない。

原告は、引用例1記載のものはスイツチ機構とストツパー機構とが電気的回路によつて接続されていないし、任意数の球の供給制御について開示されていないと主張する。しかしながら、引用例1記載のものは、スイツチ機構が補給球数を一個単位で検出して電気信号を発し、右電気信号がカウントされカウント数が所定数に達するとストツパー機構を作動させる信号が電磁石に送られることによつて機能することは前記のとおりであるから、スイツチ機構とストツパー機構とが電気的に接続されていないとはいえないし、引用例1には 「定量数の球或いは任意数の球が樋15を通過してタンク2内に補給する」(第三欄第一四行ないし第一六行)、「枝樋15には(中略)一定数の球を補給する電磁ストツパー20を設け」(実用新案登録請求の範囲)と記載されているのであるから、定量数のみならず任意数の球の供給制御が開示されていると解することにも誤りはない。

4 相違点<2>の判断について

原告は、審決は相違点<2>の判断に当たり引用例2記載の技術内容を誤認していると主張する。

そこで検討するに、成立に争いない甲第八号証によれば、引用例2はパチンコ機械の打止制御装置に係るものであるが、パチンコ球の供給制御技術にプリセツト・カウンタのシステムを用いることが記載されていると認められる(別紙第三図面参照)。すなわち、引用例2の第六頁第一五行ないし第七頁第四行、第七頁第一一行ないし第一八行及び第八頁第四行ないし第一一行には、営業開始セツト部(25)個から信号が発せられると補球器(9)により補球路(7)が解放し球(2)がタンク(6)ヘ補給されること、このとき補球路(7)を通過した球(2)が補球検出器(10)で検出されて補球数計数器(17)により計数されること、球(2)の打出しが行われている間はアウト球(2)をアウト球検出器(15)で検出し計数器(18)により常に計数されること、計数器(18)によりアウト球(2)の数が計数されている間、計数器(18)で計数されたアウト球数と補球数計数器(17)で計数された補給数との減算が演算器(19)により行われその出力が比較器(21)へ送られると、演算器(19)から送られる補球数とアウト球数との差が打止数設定器(20)に設定されている数と一致すると、比較器(21)からの出力によつて補球路(7)を閉鎖することが記載されていると認められる。そうすると、引用例2記載のものは、補球数とアウト球数との差が打止数設定器(20)であらかじめ設定された数に一致するまで補球路(7)からタンク(6)へ球を供給するものであるから、パチンコ球の供給制御技術としてプリセツト・カウンタのシステムを用いているものということができ、この点に関する審決の認定に誤りはない。

また、原告は、審決は計数可能と供給可能とを混同していると主張する。

しかしながら、引用例1記載のものは、前記のとおり一個単位で球の計数を行つているが、パチンコ機械においては球の計数と球の供給とは技術的に関連するものであるから、引用例1記載のものにおいても右計数結果に基づいて球の供給を一個単位で行うことは当然の技術的事項であると理解することができる。したがつて、原告の右主張も理由がない。

他方、引用例3にカウンタ、プリセツトダイヤル及び一致検出から成るプリセツト・カウンタのシステムか説明され、カウント値とプリセツト値との一致出力を制御に使うことが記載されていることは、原告の明らかに争わないところである。

そうすると、本願考案のパチンコ球の供給装置は、引用例1記載のもののパチンコ球の供給制御技術として、本件出願前に公知であつた引用例3記載のプリセツト・カウンタのシステムを用いたものに相当することが明らかであるところ、引用例2にはパチンコ球の供給制御にプリセツト・カウンタのシステム(ただしその具体的構成は、本願考案のシステムのそれと同一ではない。)を用いることが記載されているのであるから、引用例1記載のものの供給制御手段として引用例3記載のプリセツト・カウンタのシステムを採用すること、すなわち検出器にカウンタを接続し、該カウンタに比較装置を接続し、該比較装置に一個単位電気的数値入力装置を接続し、前記比較装置を制御装置に接続した構成を得ることは、格別の困難を伴うものではないというべきである。

5 本顧考案の作用効果について

本願考案が奏する作用効果は、前記のとおり、本願考案の装置が一個単位で任意数の球を供給し得ることによるものであるところ、引用例1記載のものも一個単位で定量数あるいは任意数の球を供給する装置であると解されるから、本願考案が奏する作用効果は、従来公知のものが奏し得る作用効果を超えるものということはできない。

6 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、本願考案は周知例1ないし周知例3及び引用例1ないし引用例3の記載に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたとする審決の判断に誤りはない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。

〔編注1〕本願考案の要旨は左のとおりである。

パチンコ球の通路1の外側に、該通路1を通るパチンコ球を、これに接触することなく検知し、それによりパルスを発する検出器2を設け、また、パチンコ球の通過を一個単位で制御する制御装置6を設けて、パチンコ球の一個単位供給器を形成し、前記検出器2に、前記パルスをカウントし、かつ、このカウント値を比較装置16に出力するカウンター15を電気的に接続し、該カウンター15に、該カウンター15からの入力数値とあらかじめ設定されている数値が同一になつた場合にのみ出力する比較装置16を接続し、該比較装置16に、パチンコ球一個を単位として、複数桁の球数値を、前記比較装置16に電気的に設定入力する一個単位電気的数値入力装置17を接続し、前記比較装置16を前記制御装置6に接続したことを特徴とする、パチンコ球の供給装置(別紙第一図面参照)。

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙第一図面

<省略>

別紙第二図面

<省略>

別紙第三図面

<省略>

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